2008年06月15日

ひつじくんの恋の熱 〜その27

 やぎ先生はそう締めくくったあと、恋診器を鞄にしまいながら言った。
 「恋の病は素敵な病気じゃ。一〇〇パーセントの想いを大切にな。」

 暖炉の辺りには、ちょっと長めの白い羽根が幾つか落ちていた。それらはみんな折れ曲がったり、クシャッとおしつぶされたり、すすで汚れていたり、毛先がふぞろいだったりしている。日勤のコウノトリが煙突から落ちたときに抜け落ちたものだということは言うまでもない。
 藁のベッドにうずくまっているひつじくんは、当然ながら、白い羽根の痕跡にまだ気づいてはいないのであった。
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2008年06月09日

ひつじくんの恋の熱 〜その26

 「でもそんな方法は普通はとらんよ。第一、一度好きになった相手への想いをそう簡単にこわせるわけないじゃないか。じゃあどうすれば良いか。ま、いくつかの方法があるが、お薦めの治療法はな、相手を喜ばせてあげる療法≠ェよかろう。ひつじくん、彼女の笑顔が大好きだろう?彼女の笑顔を見たいじゃろう?間違っても泣かせようなんて思わんだろうよ。まず彼女のためにいろんなことをして喜ばせてあげるといい。彼女のために。すると、彼女の喜んだ表情が今度は君のためになって帰ってくる。つまり恋の病を慰めてくれる。そのとき君は間違いなくとてもスッキリしたキモチを味わうことになるだろうよ。そうそう、喜ばすときには必ず彼女への想いを一〇〇パーセント込める≠フを忘れちゃならない。これは重要なことじゃ。そしてあるとき一〇〇パーセントの想い≠ェ伝わったならば、こんなにあたしのこと想ってくれているんだ。≠ニ感じ、彼女の心がひつじくんに向かって動き始める。実はそれこそが『恋の病』に一番効力があるんじゃがな。それを両想い≠チて言うんじゃ。まあ、もしそこまでいかなかったとしても、彼女を喜ばせてあげるだけでも、少しは気が楽になることじゃろう。せっかくあたためたこの恋の熱、微熱でタップリとほてっている恋の熱をほうっておく手はない。恋煩いってやつは生きている間に必ずみんなのところに訪れ、苦しめる。けどな、この病はわしらの心を強くさせてくれるんじゃ。昔は恋の病を防ぐ予防接種もあったんじゃ。でも、今はもう使われていない。自然治癒が一番じゃ。自分で悩み、落ち込んだり、無気力になったり、あまずっぱかったり、ほろにがかったり、焼け焦がれるようだったり‥‥みんなそうやってそれぞれの明日をつかまえるんじゃ。そして生きているってことを少なからず実感するんじゃ。」
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2008年06月08日

ひつじくんの恋の熱 〜その25

 (照れ隠し、照れ隠しを探さなくちゃ。うんと、どうしよう。この沈黙が恥ずかしい。)

 「恋の病ですかあ。。。じゃあ、この倦怠感(ケンタイカン)はどうすれば治るのでしょう。」

 照れ隠しの一言発見。ひつじくん、なんとか逃げた。恋を素直に喜べないんだ。いつもは素直なひつじくんが、恋というどこの世界でも一番重要で一番不思議なものの前では素直になれないでいる。

 「倦怠感≠ネんていう言い方をするでない。恋煩い(こ・ひ・わ・づ・ら・ひ)と言いなさい。いま君は治す≠ニ言ったね。恋煩いを治すってことは心をスッキリ、サッパリさせること。具体的にはその想いをやめるということ。もっと極端な治療であれば、、、つまりキライ≠ノなればいいんだよ。」

 ひつじくんの心拍数が上がった。
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2008年06月05日

ひつじくんの恋の熱 〜その24

ひつじくんは心臓の鼓動に心の耳を当ててみた。

 (確かにそんなにドキドキしていないぞ。)

 「羊の場合、恋の病は高い発熱は伴わないし、他の動物によくありがちな、いてもたってもいられない心臓の高鳴りはめったにみられないんだよ。まあ、これらを恋の熱≠ニ恋の響き≠ニいうんだが、ようするにそれらは羊種の場合、極めて緩やかな症状としてあらわれるのみ。だって狂おしく抱き合っている羊を見たことあるかい。ないじゃろう。あるいは夕日に向かってだいすきだー!≠チて叫んで石投げている羊を見たことあるかい。これもないじゃろう。たいていはおとなしく寄り添ってオデコをくっつけているか、まあ、そのー、カゲキなやつでも傍目から見てて、コノ!イチャツキヤガッテ!≠チてな程度なことしかしてないでしょ。(ここでやぎ先生、ちょっと赤くなる。‥‥nn‥‥ohon‥‥ここで気を取り直す。)羊はやや植物の愛情に似てるかもなあ。羊はいろんな面で植物的なところが結構あるし。のんびりとした、ぽかぽかした心をもっているからなあ。でもそういうおっとりした愛情が羊種では立派な恋の病なのだよ。恋の熱≠ェ低いとか、恋の響き≠ェ高鳴っていないなんて他の動物種は言うかもしれんがなあ。でもなあ、ひつじくん、君は知らないうちに一人前の恋をしているのじゃよ。いいねえ。若いって。」

 やぎ先生は目を細めてひつじくんの方を見た。ひつじくん、また照れる。
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2008年06月02日

ひつじくんの恋の熱 〜その24

 「このへんかな。」

 そして心臓の上でぴたりと止め、しばらくそのままにしていた。ひつじくんと東の羊飼いは固唾を呑んでその様子を見守っている。

 「おおっ。」

 ひつじくんは思わず声を出した。東の羊飼いが大きな目をより大きく見開いている。ハートの形をした聴診器がほんのりとピンク色に変わりだしたのだ。

 「ハッハ。やっぱりそうか。これはじゃな、恋の病≠カゃよ。ハートの部分が恋の発熱症状を示すピンク色に変わっとるし、心臓の音も放心状態により僅かながら不整な響きになっておる。」

 やぎ先生は言った。

 「恋の病。ほう。。そうか、ふーん、、。。。  西の羊飼いのところにいる雌羊だろう?」

 東の羊飼いがイ・ミ・シ・ンな目配せをひつじくんにして言った。
 図星だ。ひつじくんは耳を真赤にした。どこに目線をやればいいんだ。まともに東の羊飼いややぎ先生を見られないでいる。

 「‥‥そんなに熱があるとは思わないけどなあ。」

 ひつじくんはなんとか照れ隠しをしようとして必死である。ひつじくんは額に手を当てたり顔を両手で覆ったりして熱を確かめてる様子だ。
 「ひつじくん、恋の熱≠ヘ額に手を当てたって分かりっこないんだ。胸だってそんなにドキドキとした響きをしていないだろう?この恋診器だからわかったんじゃからな。」
 やぎ先生は例の聴診器を振り子みたいにゆらしながらそう言った。
 これが恋診器か。
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2008年05月31日

ひつじくんの恋の熱 〜その23

「ホッ。。。」
 日勤のコウノトリは肩の力をすべて重力にまかせたような格好で息をついた。

 黄色い粉がひつじくんの体の中で溶け出した。
 「別になんともなさそうじゃが。」
 やぎ先生は聴診器を耳からはずしながらそう答えた。
 木陰で休んでいるひつじくんの右と左には東の羊飼いと医者のやぎ先生が座っている。
 ほかの羊たちは午後の放牧の最中。スッコーンと突き抜けた青空の下、牧草をのんきにむしゃむしゃ食べている。
 「最近なんだかいろいろなことが手につかなくって。一日中頭がとうふみたいにふにゃふにゃしてるんです。あと、だるいし。」
 ひつじくんが言った。口をへの字に曲げながら、やぎ先生は聴診器を鞄にしまった。
 「食欲もあんまりないみたいなんです。」
 東の羊飼いはさっき汲んできた水をひつじくんとそれからやぎ先生に渡しながら言った。やぎ先生はあごひげをヒュルリ、ヒュルリといじっている。
 「ぐっすりと眠れるかね?」
 「それもあんまり‥‥」
 「どれどれ。じゃあ、ちょっとすまんがもう一度こっちを向いておくれ。」
 やぎ先生は聴診器をしまった鞄から、今度はさっきとは違う白い聴診器を取り出した。体に当てる部分がハートの形をしている。先生は普通の聴診器を扱うように二本に分かれた先端を耳に引っかけ、ハートの形をした部分をひつじくんの胸に当てがった。
posted by ほろりん at 21:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 五 ひつじくんの恋の熱 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年05月30日

ひつじくんの恋の熱 〜その22 ひつじくんの恋の熱 〜その22

   キラキラ、ヒラヒラ、ピラピラ‥‥
 黄色い粉は小屋の中を奔放に舞い、のちに予定通りひつじくんの鼻の穴に順番に吸い込まれていく。
 「さあ、夢が始まろうとしている。クシャミして途中で目を覚まさないようにね。」
 日勤のコウノトリは一息つくと腕時計をちらっと見た。
 「おっとおっと、急がなくては。やばいよやばいよ。」
 荷物を手際よくまとめてリュックに詰めこもうとするのだが、あせっているときほど作業ははかどらないもの。リュックは黄色い粉のビンではちきれんばかりにパンパンなのに、そこに荷物を片付けなくてはならないのである。きちんと入れなくては全部入らないよ。   むぎゅぎゅぎゅ、はぐはぐはぐぐ、、、
 速く動かしている手元とはうらはらに丁寧さが欠けているのでリュックは来たときと違って随分といびつな形で無理やり閉じられた。そして慌てた手つきで次ぎの配達先が書かれた紙を広げ、場所をチェックした。
 そそくさとリュックを背負う日勤のコウノトリ。暖炉の中へスルリと入ってシャカシャカと煙突から外を目指すつもりだったのだろうが、やはりあせっているときほど作業ははかどらないもの。
   ドシャ〜ン
 煙突の途中で足を滑らせたらしく、暖炉まで落ちてしまったのだ。日勤のコウノトリはとっさに「ヤバイ。」と「マズイ。」と「シマッタ。」がミックスした表情になった。そしてすばやく暖炉の中から藁のベッドで眠っているひつじくんの反応に視線をぶつけた。ひつじくんは、
 「        。」
 よかった、気づいていない。煙突のどのへんから落ちたのか、またどのくらいの大きな音がしたのか、日勤のコウノトリは夢中ではい上がっていたのでよくわからなかった。とにかくひつじくんが起きなかったことに感謝していた。
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2008年05月29日

ひつじくんの恋の熱 〜その21

 ひつじくんの寝返り。窓の方に向いたひつじくんは無抵抗な寝顔をしている。その姿を見て日勤のコウノトリは翼を広げた。

   パサッパサッパサッ

 煙突から日勤のコウノトリが入る。

 「誰も見てないだろうな。朝一から夢届けるのは人目につくから‥‥。あんまり日勤したくないんだよなあ。本当は。まあ、バイト代ちょっと高めだからやってるけどさ。」

 彼はそう言いながらキョロキョロとあたりを見回し、小屋の前の通りにも後ろの池の辺にも誰もいないことを確認すると、煙突の中に足を入れて、スルスルと降りて行った。
 そして暖炉までたどりつくとそこから頭だけだしてひつじくんの様子を伺う。(〜OKのサインを自分に出した。)
   むむむんっ
 日勤のコウノトリ、暖炉から小屋に入る。
   とんん
 リュックを降ろす。
   コトッ、パァ、シュルル、
 ひつじくん用の黄色い粉のビン、マスク、大きなうちわを取り出す。
   パパッ、パパッ、、、サラサラサラ‥‥‥

 マスクをして床に黄色い粉をまく。
 準備完了。
 うちわを両翼でしっかり持って、足を肩幅よりやや開き、腰を落とす。左足はちょっと前へ。その左足を一歩踏み込みながら大きなうちわを強くあおぎ出すのだ。

 「それそれそれ〜い。行け!(気合の入った小声で。)」

 日勤のコウノトリが大きなうちわをせっせと振りかざすと、黄色い粉は待ってましたとばかりに我先に宙を滑走し出した。

ラベル:コウノトリ
posted by ほろりん at 12:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 五 ひつじくんの恋の熱 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年05月28日

ひつじくんの恋の熱 〜その20

そんなことをふと考えていたら、ひつじくんの体中に広がっていた、いやに尖って灰色をした不安の脈はだんだんと溶けて行った。

古びたランプのじいさんがそばにいてくれたからかな。

このやさしい灯火にひつじくんが安心したからかな。ひつじくんの瞼はいつの間にか閉じられていた。


 「あれ、寝ちゃったんじゃないか。」

 カーテンのすごく細い隙間からひつじくんの小屋をのぞいていた日勤のコウノトリは自分の目を疑った。
 いつの間にかひつじくんは眠ってしまっていたのだ。

 「今日最初のお届け先から次ぎに進めないなんて。一日の出だしからこれだと参るなあ。予定数終わらないなんてことまさかないよなあ。もしあんまり睡眠に入らないようだったら已むを得ない、この小屋は後回しか明日以降に延期にしよう。神様に事情を話して。」

 と、腕時計と何度もにらめっこをしながら、日勤のコウノトリはそんな事を真剣に考えていたのだった。ところがどういうわけか、さっきまで目がさえていたらしいひつじくんがなぜかあっさりと熟睡している。
posted by ほろりん at 08:32| Comment(0) | TrackBack(0) | 五 ひつじくんの恋の熱 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年02月13日

ひつじくんの恋の熱 〜その19

 尖った不安の脈を落ち着けようとひつじくんは、
        、     、     、  深呼吸を続けている。 
 (でも恋の熱≠ネんてただ緊張してるだけなんじゃない?結局は。
  ただその恋に慣れてないだけのことなんじゃないのかな。
  だいたい僕は安心するんだよ。ひつじさんといると。
  いっしょにいると気分が高揚するのではなく、
  安心するし、落ち着くんだよ。)

 (安心するし、落ち着くんだよ。)

 (午後の陽射しのような、あの眠気をいざなうまろやかな陽射しのような恋の熱≠抱いているんだ。

  ‥‥午後の陽射しのような柔和な光りはいいよ。
    気温は暑すぎず、寒すぎず、風は強すぎず、
    でも全く吹かないわけじゃなく。
      木陰での昼寝は最高なんだよ。
    みんなでぬくぬくとしながら東の羊飼いのお話を聞く。
    午後の大気がとっても柔和だから、
   ついうとうとしてしまうんだよ。
   時計なんかなかった。。。いらなかったしね、
   あのころは。。。。。。)

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posted by ほろりん at 15:54| Comment(0) | TrackBack(0) | 五 ひつじくんの恋の熱 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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